むかしむかし、私がまだ幼稚園児だった頃。
家の近くの公園で遊ぶのが日課だった。
はじめまして
ある日、姉と2人でいつものように公園の砂場で遊んでいた。
マイブームはSPEEDのWhite Loveを振り付きで歌うこと。
あの日も砂場の角に立って大きな声で歌っていた。
ちょうどサビに差し掛かったあたり、自転車の小太りの男が公園に入ってきた。
構わん。聴いていけ。
歌い続ける私と明らかに小太りを気にする姉。
それもそのはず、男は公園の入口に自転車を止めるとゆっくりこちらに向かって歩いてきた。
距離を取る姉とようやく歌ってる場合ではないと気がついた私。
その間もジリジリと距離を詰めてくる…
どうする…？
姉と目が合わない、焦る。
叫ぶこともできず息を呑んだその時、、、姉が動いた。
公園の出口までまっしぐらに駆けていく姉。
置いていかれる！！
焦った私も姉を追いかける。
男が追いかけたのは、はじめに走り出した姉だった。
男を避けるように逃げようとした私は公園の中を大回りすることになる。
あの時の姉は人生で一番早く走ったのではないだろうか？
妹をおいてどんどん背中が遠くなっていく…
置いていかれた
私はまだ公園にいた。
男は明らかに走るのが遅かった。
姉を追いかけたが追いつけず、次は私を狙って公園に戻ってきてしまった。
姉はいない。
自分の力でどうにかしないといけない。
舞台はすべり台。右に行くか左に行くか…
膠着状態が続く…
元気な私と比べると姉を追いかけて戻ってきた男は体力を消耗しすぎていた。
逃げるなら小太りが肩で息をしている今しかない！！
…
…
…
…
夢中で出口に向かって走った。
一瞬服に男の手が当たったような気がしたけど、ただひたすらに走り続けた。
後ろから音が聞こえる。
ガチャン
思わず振り向く。
男は自転車に乗ろうとしていた。
幼稚園児の走りなんてたかが知れてる、終わった…
ガチャン…ガチャン
ん？来ない？
キックスタンドの自転車で助かった、明らかにスタンド上げるの手こずってる！！
必死で走った。
あと少しで家につく！
心配になった姉が曲がり角まで様子を見に来てくれた。
杏！！！急いで！！！後ろもう来てるよ！！！
どうやら自転車にやっと乗れたよう。
追いかけっこ再開。
息ができない…追いかけられてる…疲れた…捕まりたくない…！！
姉が玄関の扉をすぐ閉められるように入り口のところで待機してくれてる。
残りの力を振り絞って必死で走った。
家に入って閉まる扉の隙間から男が我が家の前に到着したのが見えた。
鍵閉めて！！！早く！！
無事逃げ切った
捕まる寸前で家に避難できたのは良かったけど、そのあとの静けさが一番怖い。
二人ともしばらく扉の前から動けなかった。
ドキドキドキドキ……
数分後、外からガチャンと音が聞こえた。
いや、待って、スタンドだけ上げてニヤニヤしながら家の前にいるでしょ、絶対！
とりあえず２階に上がって外の様子を見てみる。
…いない。帰った？
家バレちゃったね。また来るかな…
とか言いながらもすでに緊張感はなくなっていた。
とりあえず妹をおいていった姉を罵る。
ついてきてると思ったもん！と完全に4歳の脚力を過信している7歳、ふざけるな。
公園から家まで徒歩２分くらいの距離で近かったから助かったけど、もう少し遠い公園で遊んでたら終わってたな…
でもこの日は家に誰もいなくて、姉が家の鍵を持ってたからよかった。
先に姉が逃げてなかったら鍵開けようとしたところで捕まってたし。
あとは姉が人生最速の走りで小太りの体力を削ってくれたのも大きかった。
グッジョブ、姉
その後も家の周りをウロチョロしている小太りを何度か目撃した。
小学生のときに友達と公園で遊んでいたときは、小太りが家と家のほっそい隙間からこっちを見ていて肝が冷えた。
私と目があった瞬間にニヤッと笑って自転車漕いでいなくなったけど。
鳥肌が止まらなかった。
今も昔も変質者はいるけど、対策しようがないもんなぁ。
ああいう時ってキャーとかそんな大きい声全然出ないんだな。
めっちゃ掠れた小ちゃい声が出るだけ。
目潰しの砂をポケットに忍ばせとくとか、ボタンワンプッシュで伸びる折りたたみ傘常に持っとくとか？
難しい問題だ。
おしまい
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